労働保険の年度更新とは?手順・計算方法・申告書の書き方を給与計算担当者向けに解説【2026年版】

社会保険・労働保険

はじめに

毎年6月になると、給与計算担当者にとってもう一つの重要な手続きが始まります。算定基礎届の準備と並行して対応しなければならない「労働保険の年度更新」です。

年度更新とは、前年度の労働保険料を確定させ、今年度の概算保険料をあわせて申告・納付する手続きのことです。申告期間は毎年6月1日〜7月10日。この時期を逃すと延滞金が発生する可能性もあるため、スケジュール管理が大切です。

この記事では、給与計算を担当して1〜3年目くらいの方を対象に、年度更新の仕組み・計算方法・申告書の書き方を2026年の最新情報をもとにわかりやすく解説します。

1. 労働保険の年度更新とは何か

「労働保険」って何?(雇用保険+労災保険)

労働保険とは、雇用保険と労災保険(労働者災害補償保険)を合わせた総称です。どちらも働く人を守るための制度ですが、役割が異なります。

雇用保険は、失業したときの給付や育児休業給付などをまかなうための保険で、保険料は事業主と労働者が両方負担します。労災保険は、仕事中や通勤中のケガ・病気を補償する保険で、保険料は事業主が全額負担します。

給与明細で「雇用保険料」が控除されているのはご存じの通りですが、労災保険料は給与から引かれないため、担当者が年度更新のときにまとめて計算・納付することになります。

年度更新の2つの処理を整理する

年度更新では、次の2つの処理を同時に行います。

確定保険料の申告:前年度(2025年4月1日〜2026年3月31日)に実際に支払った賃金総額をもとに、労働保険料を確定させます。

概算保険料の申告:今年度(2026年4月1日〜2027年3月31日)の見込み賃金総額をもとに、今年度分の保険料を概算で申告・納付します。

そして、前年度に納付していた概算保険料と今回確定した確定保険料を比較して、多く払っていれば差額を充当・還付、少なければ追加で納付します。この「精算+今年度の前払い」をセットで行うのが年度更新の仕組みです。

処理対象期間使う賃金内容
①確定保険料の申告前年度(2025年4月〜2026年3月)実際に支払った賃金総額昨年度分の保険料を確定させ、昨年の概算と精算する
②概算保険料の申告今年度(2026年4月〜2027年3月)見込みの賃金総額今年度分の保険料を前払いする

📌 この2つを同時に申告・納付するのが「年度更新」です。①で精算した差額を②の納付額に反映させます。

2. 2026年度の保険料率を確認する

雇用保険料率(2026年度)

雇用保険料率は事業の種類によって異なります。一般の事業の場合、労働者負担分は賃金総額の0.6%、事業主負担分は0.95%で、合計1.55%です(2026年度)。

農林水産業・清酒製造業・建設業はそれぞれ料率が異なるため、自社の事業区分を必ず確認してください。また、雇用保険料は年度更新の申告書だけでなく、毎月の給与計算で天引きする額にも影響するため、年度をまたぐ際は料率改定に注意が必要です。

保険の種類労働者負担事業主負担給与からの控除
雇用保険あり(一般:0.6%)あり(一般:0.95%)毎月給与から控除される
労災保険なしあり(全額・業種ごとに異なる)控除されない(年度更新でまとめて納付)

📌 労災保険料は給与明細に登場しません。事業主が年度更新でまとめて申告・納付します。社会保険の「報酬」とも集計範囲が異なるため、混同しないよう注意してください。

労災保険料率(2026年度)

労災保険料率は事業の種類ごとに細かく設定されており、危険度の高い業種ほど料率が高くなります。たとえば、一般的なオフィス業務(その他の事業)では1000分の3(0.3%)ですが、建設業や製造業では大きく異なります。

労災保険料率は3年に1度見直されます。2024年度に改定が行われているため、最新の料率表を厚生労働省のウェブサイトや労働局から入手して確認してください。

一般拠出金とは

申告書にはもう一つ、一般拠出金という項目があります。これはアスベスト(石綿)健康被害救済のための拠出金で、料率は賃金総額の0.02%(1000分の0.2)です。事業の種類にかかわらず一律で、全事業主に申告義務があります。年度更新のたびに忘れずに計算しましょう。

3. 賃金総額の集計方法

何を「賃金」に含めるか

労働保険料の計算に使う「賃金総額」は、社会保険の「報酬」とは異なる定義です。混同しやすいので注意してください。

含まれるもの:基本給、時間外手当、休日手当、深夜手当、通勤手当、住宅手当、家族手当、賞与・一時金(名称を問わず)、その他労働の対価として支払われるすべての報酬

含まれないもの:役員報酬(取締役・監査役など)、慶弔見舞金、出張旅費・交通費(実費精算のもの)、傷病手当金・育児休業給付金などの保険給付、退職金

特に賞与の計上漏れが多いミスです。夏・冬ボーナスのほか、決算賞与や期末手当なども対象期間中(前年4月〜当年3月)に支給したものはすべて含めてください。

集計期間と対象者の確認

確定保険料の計算に使う賃金総額の集計期間は、2025年4月1日〜2026年3月31日です。この期間に在籍していた従業員全員(パート・アルバイト・契約社員を含む)が対象です。途中退職者も忘れずに含めてください。

雇用保険に加入できない65歳以上の従業員や、週20時間未満で働くアルバイトなども、労災保険の賃金には含める点に注意が必要です。労災保険と雇用保険で対象者の範囲が違うため、申告書の欄ごとに集計する賃金が異なります。

4. 確定保険料・概算保険料の計算手順

確定保険料の計算

確定保険料は次の計算式で求めます。

確定保険料(労災分)= 労災対象の賃金総額 × 労災保険料率

確定保険料(雇用保険分)= 雇用保険対象の賃金総額 × 雇用保険料率(事業主負担分+労働者負担分)

例として、一般の事業で労災対象賃金総額3,000万円、雇用保険対象賃金総額3,000万円の場合を計算すると、労災保険料は3,000万円×0.3%=9万円、雇用保険料(全体)は3,000万円×1.55%=46万5,000円、一般拠出金は3,000万円×0.02%=6,000円となります。

概算保険料の計算

概算保険料は、今年度(2026年4月〜2027年3月)に支払う見込みの賃金総額をもとに計算します。前年度と大きな変化がなければ、前年度の確定賃金総額と同じ金額を使って差し支えありません

大幅な増員・減員や賃上げが予定されている場合は、実態に合った見込み額を設定してください。概算が大きくズレると、翌年の精算時に多額の追加納付が生じることがあります。

精算の考え方(前年度概算との比較)

昨年度の年度更新で納付した概算保険料と、今回計算した確定保険料を比較します。

概算>確定の場合:差額は今年度の概算保険料に充当されます(充当しても余る場合は還付申請が可能)。概算<確定の場合:不足分(追加保険料)を今年度の概算保険料とあわせて納付します。

精算パターン具体例精算の扱い
パターンA:概算 > 確定昨年100万円納付 → 確定90万円差額10万円を今年度概算に充当(余れば還付申請も可)
パターンB:概算 < 確定昨年80万円納付 → 確定100万円差額20万円を追加納付(今年度概算と合算して納付)

📌 実際に納付する金額は「今年度の概算保険料 ± 精算額」です。申告書の右下欄に最終的な納付額が集約されます。

5. 申告書の書き方

申告書の全体構成

年度更新で使う申告書(労働保険概算・確定保険料申告書)は、主に次の3つの欄で構成されています。①確定保険料欄(前年度分の確定計算)、②概算保険料欄(今年度分の見込み計算)、③一般拠出金欄(石綿救済のための拠出金)。

申告書は所轄の労働局・労働基準監督署から送付されてくるほか、厚生労働省のウェブサイトからもダウンロードできます。e-Gov電子申請を利用すれば窓口に出向かずに申告が完了します。

記入の流れ(一般の事業の場合)

①確定保険料欄に、労災・雇用それぞれの確定賃金総額と計算した確定保険料を記入します。②概算保険料欄に、今年度の見込み賃金総額と概算保険料を記入します。③一般拠出金欄に、確定賃金総額(労災と同じ)と一般拠出金の額を記入します。④精算結果(充当・追加納付)を確認し、納付額を計算します。

申告書の右下に「今回納付する金額」をまとめて記入する欄があります。概算保険料から充当額を差し引いた金額と、追加保険料(差額)を合算した額が実際の納付額になります。金融機関や労働局の窓口、または口座振替で納付します。

6. 納付方法と延納(分割払い)のルール

一括納付と延納の条件

概算保険料が40万円以上(労災保険または雇用保険のどちらか一方のみ成立している場合は20万円以上)の場合、申請することで保険料を3回に分割して納付できます。これを「延納」といいます。

延納を希望する場合は、申告書に「延納申請」の旨を記入(または該当欄にチェック)します。分割払いの場合の納付期限は、第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が翌年1月31日です。

口座振替を利用している場合の注意点

口座振替を利用している場合、申告書を提出しても振替日が申告期限(7月10日)とは異なることがあります。振替日は金融機関によって異なるため、事前に確認しておきましょう。また、口座残高が不足していると振替が失敗し、延滞金が発生する場合があるため注意が必要です。

7. よくあるミスと注意点

ミス①|賞与を賃金総額に入れ忘れる

年度更新でもっとも多いミスの一つが、賞与の計上漏れです。対象期間中(前年4月〜当年3月)に支給したボーナスや決算賞与を、すべて賃金総額に含めているか確認してください。給与ソフトの集計機能を使う場合も、賞与が別テーブルになっていて集計から外れていないか注意しましょう。

ミス②|保険料率の年度を間違える

雇用保険料率は年度によって改定されることがあります。昨年度の料率をそのまま使い回すと計算が狂います。必ず当年度の最新料率を確認してから計算してください。厚生労働省の「雇用保険料率表」で最新版を確認するのが確実です。

ミス③|役員報酬を賃金総額に含めてしまう

取締役・監査役などの役員報酬は、労働保険料の賃金総額には含まれません。ただし、役員でも実態として労働者性がある(使用人兼務役員など)場合は含めることがあります。迷うケースは社労士や労働局に確認することをお勧めします。

ミス④|算定基礎届と時期が重なることを忘れる

6〜7月は社会保険の算定基礎届(提出期限:7月10日)と年度更新(申告期限:7月10日)が完全に重なります。どちらも同じ期限なので、余裕を持って両方の準備を進めましょう。算定基礎は日本年金機構から、年度更新は労働局・労基署から書類が届くため、受け取り窓口が異なる点も意識しておくとよいでしょう。

まとめ:年度更新の作業チェックリスト

年度更新の要点を振り返りましょう。

① 賃金総額の集計(前年4月〜当年3月、退職者・賞与含む)は完了しているか?② 2026年度の最新の保険料率(雇用保険・労災保険)を確認したか?③ 確定保険料と概算保険料の計算は終わったか?④ 前年度概算保険料との精算額(充当・追加)を確認したか?⑤ 申告書の各欄に正しく記入できているか?⑥ 延納希望の場合は申告書に記入したか?⑦ 7月10日までに申告・納付できるスケジュールになっているか?

年度更新は、慣れてしまえばルーティン作業ですが、初めて担当する方には全体像がつかみにくい手続きでもあります。この記事を手元に置きながら、落ち着いて一つひとつ確認していきましょう。算定基礎届と並行する時期なので、どちらを先に仕上げるかスケジュールを決めておくのも大切です。

※この記事の情報は2026年5月時点のものです。

この記事を書いた人

【運営者プロフィール】

▶ 2018年〜 介護系ソフトの勤怠・給与計算サポート業務
▶ 給与計算の資格を独学で取得
▶ 2022年7月〜2025年5月 給与奉行・法定調書奉行のコールセンター勤務
▶ 現在 独学で最新情報をアップデートしながら情報発信中

現場で数多くの「困った」に向き合ってきた経験をもとに、
わかりやすく・正確な情報をお届けします。

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