社会保険の企業規模要件、いつなくなる?2026-2035年ロードマップ完全版

社会保険の企業規模要件が2026年から2035年にかけて段階的に縮小することを示す3Dアニメ風の階段イラスト 年収の壁・扶養

「うちの会社、いつから対象になるんですか?」という一番多い質問

前回の記事で「2026年10月に106万円の壁(賃金要件)が廃止される」とお伝えしたところ、サポート窓口に増えたのがこの質問でした。「うちは従業員30人くらいの会社なんですが、いつから対象になるんですか?」——実はこの質問の答えは、単純な「YES/NO」ではなく、9年かけて動いていくロードマップの中にあります。

先に結論からお伝えします。社会保険の適用対象となる「企業規模要件」は、2026年10月の51人以上から始まり、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上と段階的に縮小し、2035年10月に完全撤廃される予定です。「今は対象外だから関係ない」と思っている会社ほど、この後のスケジュールを知っておく必要があります。

企業規模要件の段階的縮小タイムライン(2026年→2035年、5段階の階段状の図)
企業規模要件の段階的縮小タイムライン(2026年→2035年、5段階の階段状の図)

本質的な問題は「51人以上」という数字だけが独り歩きしていること

今回の改正報道の多くは「2026年10月から51人以上の企業が対象」という最初の一段階だけを取り上げています。そのため、多くの中小企業の経営者・給与担当者が「うちは51人未満だから、今回は関係ない」で思考を止めてしまっています。

しかし本質的な問題は、この「51人以上」が終着点ではなく出発点だということです。2035年までに要件は段階的になくなり、最終的にはすべての企業が対象になります。「今は関係ない」と「一生関係ない」は、まったく違う話なのです。

なぜこの誤解が起きるのか、3つの原因

原因1:報道が「今回変わる部分」しか伝えない

ニュースは基本的に「今、何が変わるか」を伝えるものなので、2026年10月の「51人以上」という数字だけが強調されます。2027年以降のスケジュールまで踏み込んで解説されることは多くありません。

原因2:「51人」の数え方が誤解されやすい

ここでいう「企業規模」は、単純な全従業員数ではなく、厚生年金保険の被保険者数でカウントされます。すでに社会保険に加入している正社員・フルタイムパートの人数が基準になるため、「アルバイトを含めた総従業員数」で数えて「うちは51人未満」と思い込んでいる会社が、実際には対象に入っているケースがあります。

原因3:数年先の話として先送りにされがち

2029年、2032年、2035年という節目は、多くの会社にとって「まだ先のこと」に感じられ、経営計画や採用計画に織り込まれていません。気づいたときには対象になっていて慌てて対応する、という会社が今後増えることが予想されます。

解決策:自社の被保険者数を数え、ロードマップに当てはめる

まず、自社の厚生年金保険の被保険者数を正確に把握してください。総務・人事部門であれば、社会保険の資格取得届の提出状況から確認できます。次に、その人数を先ほどのロードマップに当てはめ、「自社が対象になるのは何年何月か」を具体的な日付で把握しておきましょう。

「まだ先だから」ではなく「いつ来るか分かっているから今は大丈夫」という状態にしておくこと。それが、後から慌てないための一番の備えです。

具体例:各規模の会社は、いつ対象になるか

  • 被保険者数45人の会社:2026年10月時点では対象外(51人未満)。2027年10月に基準が36人以上になった時点で対象になります。
  • 被保険者数25人の会社:2027年10月時点でも対象外。2029年10月に基準が21人以上になった時点で対象になります。
  • 被保険者数8人の会社:2032年10月時点でも対象外。2035年10月の完全撤廃によって、初めて企業規模に関わらず対象になります。

自社の人数を当てはめてみると、「思ったより早い」と感じる会社も少なくないはずです。

各段階で会社がやるべきこと(実務チェックリスト)

対象になる年が近づいてきたら、次の準備を進めておくとスムーズです。

  • 対象となりうる従業員(週20時間以上勤務のパート・アルバイト)のリストを更新する
  • 対象になった場合の会社負担分・本人負担分の保険料をシミュレーションしておく
  • 就業規則・労働条件通知書の記載内容に社会保険に関する説明を追記しておく
  • 対象になる前の年から、従業員への周知を始める

よくある質問

Q. パート・アルバイトの人数も「51人」のカウントに含まれますか?

A. カウントの基準は「厚生年金保険の被保険者数」です。すでに社会保険に加入しているフルタイムのパート・アルバイトは含まれますが、社会保険未加入の短時間勤務の方は含まれません。総従業員数とは異なる数字になる点に注意してください。

Q. 支店や事業所が複数ある場合、どの単位で数えますか?

A. 個々の事業所ごとではなく、法人単位(同一の適用事業所)で合算して数えるのが基本的な考え方です。複数の支店をお持ちの会社は、法人全体の被保険者数で確認しましょう。

Q. 対象になったら、今の雇用契約をすぐに変更しないといけませんか?

A. 雇用契約の労働時間や賃金そのものを変える必要はありません。対象要件を満たす従業員について、社会保険の資格取得手続きを行うことが必要になります。契約内容の見直しが必要かどうかは、個々の従業員の働き方によって判断してください。

Q. 従業員数が増減を繰り返している場合、判定はどうなりますか?

A. 日本年金機構の基準では「1年のうち6ヶ月以上、被保険者の総数が基準を上回ることが見込まれるかどうか」という、将来の見込みに基づいて判定されます。単純に「今日時点で何人か」だけで決まるわけではなく、繁忙期だけ一時的に基準を超えても直ちに対象になるとは限りません。ボーダーライン付近の会社は、年間を通じた人数の見込みを社労士等に確認しておくと安心です。

今日からできる、具体的な3つのアクション

  1. 自社の厚生年金保険の被保険者数を確認する。 総従業員数ではなく、社会保険加入者数が基準であることに注意してください。
  2. 自社が対象になる年を、今回のロードマップに当てはめて特定する。 2027年・2029年・2032年・2035年のうち、どの節目が自社に関係するかを確認しましょう。
  3. 対象になる前の年に、カレンダーにリマインダーを設定する。 「まだ先」で終わらせず、いつ来るかを見える化しておくことが一番の備えです。

「うちはまだ関係ない」で終わらせず、「うちは何年何月から関係ある」まで具体化しておくこと。それが、この9年がかりの改正と上手につきあうコツです。次の記事では、今回とは別の改正である「雇用保険の適用拡大(2028年10月・週10時間以上)」について、混同しやすいポイントを整理して解説します。

この記事を書いた人

【運営者プロフィール】

▶ 2018年〜 介護系ソフトの勤怠・給与計算サポート業務
▶ 給与計算の資格を独学で取得
▶ 2022年7月〜2025年5月 給与奉行・法定調書奉行のコールセンター勤務
▶ 現在 独学で最新情報をアップデートしながら情報発信中

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